司法書士法人みずほ総合法務事務所|岐阜・愛知・三重
「相続」とは、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することをいいます。
「権利」とは土地家屋や現金預金などのプラスの財産で、「義務」とは借金などのマイナスの財産をいいます。相続の場合、プラスの財産だけを引き継ぐわけにはいきません。マイナスの財産も引き継がなければならないのです。
つまり、プラスの財産が全然なくて、マイナスの財産だけだったとしても、このマイナスの財産(借金の返済義務等)だけを相続してしまうことになります。となると、マイナスの財産が多い場合は、相続人の生活が脅かされることにもなりかねません。
そこで、法律は相続人の意思を尊重し、相続人の保護を図る制度として、「相続放棄」と「限定承認」という2つの方法を認めています。
どちらを選択するかについては、プラスの財産とマイナスの財産がそれぞれどれくらいあるのかによって変わってきますので、迷ったときは相続の専門家にご相談ください。
正確な財産額を調べてから判断していきます。
自己の意思によって、プラスの財産もマイナスの財産も引き継がないのが相続放棄です。
したがって、借金は相続したくないが家は相続したい、といったように、資産は承継するが負債は承継しない、ということはできません。
このような相続放棄は、通常は債務超過の場合に行われますが、例えば、他の相続人に財産を相続させたいときなどのように、債務超過でなくても相続人の自由意思によって相続放棄することができます。
相続放棄をした場合、その放棄をした相続人は、はじめから相続人ではなかったものとみなされます。相続放棄をした相続人の子や孫に代襲相続は行われません。同順位の相続人の相続分が増えたりします。また、仮に同順位の人が全員相続放棄をすると、次の順位の人が相続人になります。
したがって、一人が、借金が多いということで相続放棄をすると、他の相続人に借金の相続権が移ってしまうことになるので注意が必要です。
なお、相続放棄をした人が、生命保険金や死亡退職金を取得することはできますが、その場合全額が相続税の対象となります。
相続放棄は、他の相続人に関係なく、相続人が一人でできます。
自分が相続人であると知ったときから3ヶ月以内に、被相続人が生前住んでいた場所を管轄する家庭裁判所に申し出をしなければなりません。
家庭裁判所に対する申し出をするときは、「相続放棄申述書」に、
を添付して提出します。
この3ヶ月の期間を過きてしまった場合や、相続財産に手をつけてしまったりした場合には相続放棄はできません。
また、一度放棄をするとこれを取り消すことはできません。
提出先 | 被相続人の死亡した住所地を管轄する家庭裁判所 *家庭裁判所に、相続放棄の申述のための用紙が置いてあります。 |
提出者 | 相続放棄をしようとする人 |
提出期限 | 被相続人が死亡したことを知ったときから3ヶ月以内 *期間が短いので注意してください。 |
必要書類など | 放棄する相続人の戸籍謄本 被相続人の除籍(戸籍)謄本・改製原戸籍謄本 (出生から死亡までのすべての戸籍謄本) 住民票の除票 印鑑 |
相続財産がプラスなのかマイナスなのか不明な場合には、相続によって得た財産の範囲内においてのみ被相続人の債務を弁済する責任を負い、相続人の財産を持ち出してまでは弁済しなくてもよい。ということになるのが限定承認です。
例えば、親に借金があることはわかっているが、その正確な金額がよくわからない場合や、借金があったとしても、プラスの資産がある場合には相続放棄が得策でない場合などに利用されます。
相続放棄は完全に遺産を放棄する手続きですが、限定承認は条件付きで遺産を相続する手続きといえます。
限定承認も相続放棄と同じく、自分が相続人であると知ったときから3ヶ月以内に、被相続人が生前住んでいた場所の管轄の家庭裁判所に、限定承認申述書を提出して行います。
限定承認申述書に相続人全員の戸籍謄本、被相続人の除籍(戸籍)謄本、改製原戸籍謄本(出生から死亡までのすべての戸籍謄本)、住民票の除票に加えて、相続財産の財産目録を添付しなければなりません。
注意しなければならないことは、相続放棄の場合とは異なり、相続人全員(相続放棄した者を除く)で申し立てなければならないということです。
また、限定承認してから5日以内に債権者および遺贈を受けた人にはその権利を請求するよう通知し、また一般に対しては申し出るよう公告します。
そして、債権者や遺贈を受けた人に対して相続財産から弁済をすることも必要になります。
しかも、その弁済の前提として不動産などを競売手続等で清算することとなり、その手続だけでもかなり複雑で面倒なものとなります。
さらに、 限定承認をすると、相続開始時に相続財産を時価で譲渡したものとみなされて、被相続人に譲渡所得税が課せられますますので税務上の注意も必要となります。
また、被相続人が相続税の延納許可を受けていた場合に、その相続人が限定承認した場合、相続税の延納の許可を取り消されることがありますのでこれも注意が必要です。
提出先 | 被相続人の死亡した住所地を管轄する家庭裁判所 *家庭裁判所に限定承認の申述のための用紙が置いてあります。 |
提出者 | 相続人全員で。 ただし、相続放棄をした人がいるときは、その人を除きます。 |
提出期限 | 被相続人が死亡したことを知ったときから3ヶ月以内 *期間が短いので注意してください。 |
必要書類など | 相続全員の戸籍謄本 被相続人の除籍(戸籍)謄本・改製原戸籍謄本(出生から死亡までのすべての戸籍謄本) 住民票の除票 財産目録 相続人全員の印鑑 |
相続放棄も限定承認もせずに3ヶ月が過ぎてしまった場合は?
この場合は、自動的に単純承認したことになります。借金も当然引き継いだ ことになります。なお、相続財産の一部または全部を処分したりすると、それも単純承認したとみなされます。したがって、マイナスの財産がある場合は、相続財産がどれくらいあるのかを正確かつ迅速に調べることが必要となります。財産の評価が難しいものもありますので、少しでもわからないことがあれば、専門家にご相談されることをおすすめいたします。
被相続人の財産を無条件かつ無限に承認することです。
つまり、プラスの財産であれ、マイナスの財産であれ全てを承継し、責任を負うことになります。なお、民法には、法定単純承認という規定があり、以下に該当すると単純承認をしたとみなされますので、相続放棄や限定承認を考えている場合は注意が必要です。
熟慮期間の伸長の申し立て
原則、限定承認をするか、相続放棄をするかは、自分が相続人となったことを知ってから3ヶ月以内に、決めなければなりません。しかし、亡くなった方が疎遠であったり、遠方の方であったりすると、その期間内に相続財産の状況の調査ができないことがあります。その場合、家庭裁判所に、「相続の承認・放棄の期間伸長」の申立てをすることができます。なお、伸長期間は家庭裁判所の裁量となります。
家庭裁判所は、相続財産の構成の複雑性、所在場所、相続人の海外や遠隔地居住の状況などを考慮して、期間の伸長が必要かどうかを判断しますので、特別な事情が必要になります。